2014年06月号
健康な人とは、どのような人を指すのでしょうか?
“お隣のご主人、今朝急に倒れて、救急車で運ばれたらしいわよ。昨日まで、とても元気だったのにね。”
このような会話を聞いたことがあるかもしれません。
では、この人は昨日までは健康で、今日突然、病気になったのでしょうか?
血圧が高いのを気づかず、放置していた可能性はないでしょうか?
健康な人を定義することは、実は難しいのです。
過去には、本人が体に何の支障(症状)も感じず、元気に活動している方を、私達は健康な人だと思っていました。現在は、自覚症状がない高血圧、糖尿病、脂質異常症(コレステロール高値など)等も疾患として認められているため、健診を受けて異常を認めないことが、健康な人の条件として加わっているように思います。
そのため、検査を受けた時には、結果が正常範囲に入っているかどうかということが大変気になります。では、そもそも正常値はどのようにして決まっているのでしょうか?
今年4月に、人間ドック学会から、「検査結果の基準値を従来の正常値より広げては」との発表があり、健康であるとの基準が緩和されるような報道がされました。
主なものは、表に示した血圧、LDLコレステロール、中性脂肪などの基準値で、専門学会が定めた正常値より緩和された数値となっています。
人間ドック学会 の新基準値 |
専門学会 の正常値 |
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血圧(mmHg) | 147/94未満 | 140/90未満(若年、中年の診察室血圧 家庭血圧135/85未満) 高血圧治療ガイドライ2014 日本高血圧学会 |
LDLコレステロール |
男性 72~178 女性(30~44才)61~152 (45~64才)73~183 (65~80才)84~190 |
男女共通60~119 |
中性脂肪 |
男性 39~198 女性 32~134 |
男女共通30~149
動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012 日本動脈硬化学会 |
人間ドック学会では、健診を受けた健康と思われる人達の検査値から統計学的な手法を用い、95%信頼区間を計算し、基準値を求めたとのことです。
人間ドック学会が決めた健康人の定義は過去に慢性疾患、悪性腫瘍の既往がなく、現在通院治療を行っておらず、喫煙なく、飲酒は1合/日未満の人でした。
一方、専門学会の定めたガイドラインによる正常値は、いろいろな疫学調査、研究論文から、将来、より病気になりにくい範囲が考えられ、正常値と決められています。
例えば、高血圧では、将来の脳卒中、心疾患のリスクが上昇しないことを条件に正常値を決めています。
ドック学会の健診の基準値は、現在健康状態にあると思われる人達の検査結果の分布範囲を示したもので、目安にはなりますが、たとえば10年後の将来の状態は考慮していません。
したがって、検査結果が、今回の緩和された基準値に入っているからといっても、将来にわたって安心という判定にはならないのかもしれません。