2017年05月号
高齢化社会となり、認知症は私達の家族、私たち自身にも起こってくる最も身近で、心配な病気の一つです。認知症には、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症などがありますが、脳神経細胞の変性によって起こってきます。認知症の症状には、中核症状と行動・心理症状(BPSD)があります。
中核症状は脳神経細胞の障害により起こる症状で、認知症の初期から、ほぼすべての方に認められる症状です。代表的な症状は記憶障害で、数分前の出来事を忘れてしまうことが特徴的です。このため、鍋に火をつけたまま焦がしてしまうというようなことが起こります。通常のもの忘れは、出来事の一部を忘れることが多いのですが、認知症では、物事の全体を記憶できていません。例えば、私達も昨日の夕食のおかずが何だったか、思い出せないことがありますが、認知症の方では、食事を摂ったこと自体を記憶しておりません。また、よく使う言葉が出てこない。電子レンジ等、電化製品が使えなくなるなどの症状がみられます。そして、一連の準備、動作の必要なことができなくなってきます。例えば、料理がうまくできなくなる。冷蔵庫の中がぐちゃぐちゃになっている。いままで、行っていた趣味、例えば釣りなどが、できなくなる、または、興味を示さなくなるなどです。その他、目が見えているのに、物の形、状況をうまく判断できない、失認という状態が起こります。例えば、かまぼこなどの食材を等間隔で切れないという症状はこの一つです。また、立方体とか時計の絵を模写してもらうテストをすると、うまく書けないという特徴があります。このような状況がみられると、車の運転は危険です。
行動・心理症状(BPSD)は認知症に伴って出現する行動や心理的症状で、心理的な症状としては、不安、妄想、抑うつなどがあり、行動症状としては、興奮、怒りやすくなる、抑制がきかない等があります。例えば、物をしまった場所を忘れ、誰かに盗まれたと周りの人を疑ったり、失敗したことを指摘されると、バカにしているのかと怒鳴ったりして、周りの人との人間関係に影響を及ぼすことがあります。BPSDには、記憶障害などの中核症状によって生じる不安感や、焦り、気持ちの落ち込み等、本人なりの理由が存在します。本人や家族の負担という点では、こちらの方の影響が大きいことがありますが、薬物療法や環境調整(周りの人の対応の仕方)で改善が期待できるものも多いようです。
認知症の症状が疑われたら、まず、かかりつけ医にご相談ください。必要なら専門医を受診し、精密検査を受けることも必要です。適切な治療で、認知症の進行を遅らせ、症状の軽減へつながることもあります。